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10.半導体光触媒の活性を決める因子

 半導体光触媒の活性を決める因子は多くある。その一つ一つについて考察してみよう。

10.1.半導体の光吸収と電子−正孔対の生成

 半導体のバンドギャップ吸収の吸光度(吸光係数)は非常に大きく、反射などによる光の損失は少ないであろう。しかし、吸収端付近では吸光度はあまり大きくはない。超微粒子半導体では量子サイズ効果によって吸収波長端は短波長側にシフト(blue shift)する。したがって、同じ光源を使っていると光吸収効率が悪くなる。高分散担持金属酸化物光触媒についての光吸収については不明であるが、分散度が高くなると吸収効率は下がるはずである。
 バンドギャップ吸収に伴い、電子−正孔対(electron-hole pair)ができる。これは正と負の電荷が空間的に近いところにある状態なので、何らかの分離する力が働かなければ、再結合(recombination)してしまう。図9のような、電子が伝導帯から価電子帯に光励起されるイラストは、電子の電子(エネルギー)状態の上昇を示すものであって、空間的に分離したことを示すものではない。   

10.2.犠牲剤水溶液からの光水素発生反応

 半導体光触媒のもっとも優れている点は、電荷分離(charge separation)が半導体表面に形成される空間電荷層の電位勾配によって行われることである。すなわち、電子はバルク方向へ、正孔は表面方向への力を受けて空間的かつ不可逆的に分離される(図5参照)。この電荷分離は半導体のp-n接合による整流作用や光発電機能と同じ原理であり、光エネルギー変換の原動力になっている。空間電荷層での電荷分離の効率は電位勾配の大きさ(傾斜)によって決まる。電位勾配は、半導体と半導体に接する物質のフェルミエネルギーの差、および半導体のキャリヤ密度によって決まる。Ptなどの金属を付けることによって電荷分離が促進される、というようなことを書いている論文もあるが、根拠がない。金属微粒子は電子を集める性質があるので、電子のプールとして働くことはあり得よう。
 空間電荷層は半導体の表面から、数10nmも内部にわたってできるとされている。したがって、粒径が空間電荷層の厚さより小さい微粒子半導体では空間電荷層はできないという意見もある。しかし、粒径が数10nm程度あれば表面近傍の電位勾配がまったくなくなることはないであろう。さらに、微粒子は一般に1次粒子としてより、凝集した2次粒子として存在する。2次粒子中の粒子間導電性にもよるが、2次粒子全体が一つの粒子のように振る舞い、表面に空間電荷層を形成することもあり得るであろう。粒径の小さいP-25(約30nm)によっても水の光分解が起こることは、微粒子半導体でも何らかの電荷分離機能があることを示している。
 実際の半導体表面は完全なものではなく、電子や正孔を捕捉(trap)する格子欠陥や不純物などが存在する。これらに捕捉された電子や正孔は空間的に十分、分離されていないときには容易に再結合する。O2による気相光酸化反応などの場合、空間電荷層が十分に形成されていない場合があり得る。このような場合、吸着した酸素分子による電子捕捉が電荷分離効率を決めることになるかもしれない。 高分散金属酸化物光触媒の場合は空間電荷層の形成はありえず、電子と正孔を捕捉したトラップサイトそのものが反応の活性点になっていると考えられる。すなわち、電子と正孔の空間的な分離は起こっていない。したがって、量子収率は低く、光エネルギー蓄積型の反応も起こらない。

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10.3.電子と正孔の関与する反応

 これらは一種の電気化学反応であり、反応速度(効率)は一般的には、電子あるいは正孔と反応する物質の表面濃度(被覆率、coverage)、触媒を必要とする場合には触媒活性、および過電圧によって決まる。ここでの過電圧は、反応の酸化還元(平衡)電位と電子および正孔の電位との差である。電子と正孔の電位は、それぞれ近似的に伝導帯の下端および価電子帯の上端の電位と考えてよい。
 反応物の表面被覆率は、その分圧(濃度)と吸着力によって決まる。光触媒反応の場合、反応速度はそれほど大きくないから、吸着が律速になることは少ないであろう。しかし、空気中の悪臭や環境汚染物質を除去しようとするときには、それらの分圧はきわめて低いので拡散律速になる。このような場合には、強制的に空気を循環させて、光触媒への接触を大きくするしかない。
 金属酸化物半導体はn型であり、正孔はほとんど動かない。正孔の実体は励起された格子酸素と考えられ、構造的にも長距離を動くことはできない。したがって、酸化触媒を加えても正孔が酸化触媒に移行することはできず、触媒作用は期待できない。TiO2のようなバンドギャップの大きい半導体では価電子帯の位置が深く、酸化反応に大きな過電圧がかかるため、酸化触媒を加えなくても反応は起こる。
 一方、電子は自由に動くことはできるが、電気抵抗が大きいと損失が多くなって過電圧が下がる。すなわち、反応速度(=電流、 i)は抵抗、Rに逆比例する(i = V/R)。例えば、完全に酸化されたTiO2は非常に電気抵抗が大きく電気は流れない。しかし、これを還元するなどして酸素欠陥を作ると、導電性が増して電気が流れるようになる。したがって、市販されている粒径の大きいルチルや高温で焼成したTiO2粉末はタイプTの光触媒反応に対する活性が低いが、水素還元すると活性が上がる。このことに気が付かない人は意外と多い。
 電子による還元反応には金属酸化物半導体は一般に触媒活性が低く、還元触媒を必要とする場合が多い。例えば、TiO2光触媒によって水(プロトン)を還元して水素にする反応の場合、TiO2の水素発生活性はきわめて低い。さらに、TiO2の伝導帯(正確にはフラットバンド電位)の位置と水素発生電位の差(過電圧)は小さく、還元触媒は必須である。TiO2光触媒による光水素発生反応にPt/TiO2が使われるのはこのためである。担持するPtの量には最適値があり、通常、0.5-1 wt.%で光触媒活性が最大となる。少なすぎると触媒として不足し、多すぎると再結合サイトになったり、光を遮蔽したりするためである。Ptの分散度にはあまり依存しない。
 電子と正孔の反応が、電子と正孔の供給速度よりも遅い場合、これらは半導体光触媒中に蓄積することになる。これに伴い、空間電荷層の電位勾配は緩やかになり、電荷を分離する力は弱くなる。したがって、再結合が著しくなり、収率が低下する。  

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10.4.半導体表面の熱反応

 電子と正孔の反応の生成物がそのまま脱離するとは限らず、いくつかの表面反応を経て最終生成物となる場合がある。この過程には光は関係なく、通常の熱触媒反応として進行する(吸着種の光吸収による光化学反応があるかもしれない)。例えば、正孔による水の酸化によってO2が生成する場合、吸着酸素原子、O(a)あるいは・OHラジカルが最初にできると考えられる。O(a)の場合には、2O(a) → O2の過程が、・OHの場合には複数の過程がO2発生までに必要となる。したがって、光触媒反応の中には、このような表面反応過程が律速になっている場合もあり得る。とくに、反応中間体がさらに反応することなく、脱離もせずに表面に蓄積する場合には、最終的に光触媒活性は失われることになる。
 水の光分解のように、還元生成物と酸化生成物の反応が起こる場合は表面上での逆反応が問題となる。最終生成物になる前の中間体の段階での逆反応もある。例えば、Pt/TiO2上に吸着した水素原子はTiO2上にスピルオーバー(溢れ出し、spillover)することが知られている。TiO2上に移行した水素原子はO(a)や・OHと反応してH2Oとなる。

10.5.可視光化処理と光触媒活性

 金属酸化物半導体はバンドギャップが大きく紫外光しか利用できないので、これを可視光にも応答させる方法が考えられている。可視光化処理によって光触媒活性がどのように変化するか考察してみよう。

1) 不純物ドーピング
 金属酸化物半導体に少量のCrなどを混入すると、光吸収が長波長側にのびることが古くから知られており、不純物ドーピングと呼ばれている。半導体の禁制帯中に不純物準位ができ、ここに電子が励起されるためと言われている。拡張された可視光波長域の吸光度は、紫外域の吸光度より一般に小さい。可視光によって生じた電子−正孔対が電荷分離するかどうかは定かでない。O2による光酸化反応などは起こるが量子収率は低い。不純物が再結合センターになるためと考えられている。半導体に他の物質を加えることにより、新たな(純)半導体ができるのではない限り再結合の増加はさけられない。可視光域における安定な光触媒が無い現在、収率をあまり考えなければ利用できる技術であるかもしれない。

2) 複数の半導体の混合あるいは積層
 CdSなどの硫化物半導体は可視光で働くが、水溶液中では光溶解が起こって使えない。そこで光溶解の起こらないTiO2と組み合わせるというアイデアが時々提案される。CdS粒子をTiO2で被覆する、あるいはCdS膜の上をTiO2膜で被覆することでCdSは直接、溶液と接触することなく光吸収し、生じた電子と正孔はTiO2の移行して、還元、酸化反応を起こすであろうという考えである。CdSはn型半導体であり、正孔はほとんど動かないのであるから、この考えは成り立つはずがない。このような光触媒によって可視光応答性が出たとする報告は、TiO2へのCdあるいはSの不純物ド−ピングの結果であろう。熱触媒はいろいろな触媒を混ぜることによって性能の向上が可能であるが、半導体光触媒はその逆で混ぜるほど性能は悪くなる。半導体を混ぜることによってまったく新しい半導体ができれば別であるが、そのような話は聞いたことがない。

3) プラズマ処理
 TiO2をプラズマ処理すると可視光応答性のある光触媒ができると報告されている。この処理ではとくに不純物を加えていないのでTiO2の還元だけが起こっていると考えられる。TiO2よりバンドギャップの小さい物質ができたと結論しているようだが、その物質を純粋に取り出してみせることが何よりの証明になるであろう。
 TiO2を水素還元すると、Ptなどを付けなくても水からの光水素発生が起こる。しかし、酸素は生成しない。この反応は熱によっても起こり、TiO2の酸素欠陥とH2Oが反応して起こる、一種の量論反応である。O2と還元されたTiO2を反応させると、O2は酸素欠陥に入り込んで活性化し、酸化反応を起こすことも考えられる。TiO2は還元すると着色するので可視光を吸収してこれらの量論反応を起こすかもしれない。量論反応と触媒反応の区別はターンオーバー数を測定すればわかる。

4)窒素ドーピング
 最近、チタン系オキシナイトライドが可視光応答性を持つとして注目されている。その作製法には窒化チタン(TiN)の酸化やNH3中でのTiO2のプラズマ処理などがある。NがTiO2のOと置き換わることにより新しいバンドができると説明されているが、Nの不純物ドーピングと考えることもできる。筆者はすでに15年前にゾルーゲル法でTiO2を作成する際にNH3OHを加えて焼成すると、可視光応答性のあるTiO2が得られることを見出し発表している。(Chem. Phys. Lett., 123, 126(1986)) 現在、話題になっているチタンオキシナイトライドと同様のものが作られていたと考えられる。また、前項で述べたプラズマ処理も窒素雰囲気中で行った場合、Nがドープされると考えられる(これについては明示的には述べられていない)。
 さて、NをドープしたTiO2は500℃以上の温度で焼成すると、Nが抜けて可視光応答性が悪くなる。すなわち、安定な物質ではないことを示している。したがって、光酸化反応などに使った場合、NがOと置き換わることがあり得るわけであり、安定な光触媒となりえない可能性が高い。

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11 二酸化チタンの光触媒作用

半導体光触媒の中でもっとも活性が高く、しかも安定なものは二酸化チタン、TiO2である。したがって、TiO2光触媒についての研究がもっとも多い。ここではTiO2の特徴的な光触媒作用について解説する。

11.1.二酸化チタンの結晶形

 TiO2にはアナターゼ(anatase)、ルチル(rutile)、およびブルッカイト(brookite)の三つの結晶形がある。このうち、brookiteは天然には産しない(合成することはできる)。Rutileが安定型であり、他の結晶形のTiO2は高温で加熱すると最終的にrutileになる。結晶転移の温度は主として不純物によって決まり、純粋なものほど低い温度で転移する。TTIP(titanium tetra-isopropoxide)から合成したanataseは約500°Cでrutileに転換する。我が国で市販品されているanataseは主として硫酸チタンから作られ、硫化物が不純物として含まれるため、約800°Cまで結晶転移しない。表11.1にそれぞれの結晶型のパラメータを示す。

表11.1 TiO2の結晶形とバンド構造

名称 結晶形 格子定数(Å) 禁制帯幅
(eV)
平帯電位
(V vs NHE)
a b c
Anatase 正方晶形 5.36 9.53 3.2 〜-0.2
Rutile 正方晶形 4.59 2.96 3.0 〜-0.1
Brookite 斜方晶形 9.15 5.44 5.14 3.2

 これらのTiO2の中で単結晶が得られるのは、これまでrutileに限られていたが、最近、anataseの単結晶も合成できるようになった。SrTiO3の単結晶を基板として、TiO2をエピタキシャル成長させる方法によってである。粉体では表面科学的な研究は難しいので、rutileに比べてanataseの表面科学的な研究が遅れていた。今後のanataseの表面科学の発展に期待したい。

11.2.結晶形による光触媒活性の違い

 一般にrutileよりanataseの方が光触媒活性は高いと言われている。しかし、これは市販されているTiO2を買ってきてそのまま測定した場合であり、詳細に検討すると大きな違いはない。まず、酸素による光酸化反応では光触媒活性は表面積に依存することを前に述べた。Rutileはanataseを高温で焼成して作ることが多いので、一般に表面積が小さい。表面積が同程度の試料で比較すれば両者の光酸化活性に大きな差はない。
 光電気化学型の反応、例えば犠牲還元剤を用いる水素発生反応では、TiO2の伝導帯の位置(正確にはフラットバンド電位)によって活性が変わると考えられる。確かな測定はないが、フラットバンド(平帯)電位は、表11.1に示すように、anataseの方がrutileより負側にあり、水素発生には有利であるとされている。しかしながら、水素発生反応に対するTiO2の光触媒活性は導電性によって変わることを先に述べた。したがって、空気中で高温焼成されたrutileは導電性がanataseより低いので、rutileがanataseより水素発生活性が低いのは導電性のためかもしれない。そこで水素還元によって両者の導電性をよくし、犠牲還元剤の種類を変えて水素発生活性を測定した。

アナタースとルチルの光触媒活性ー水素発生1
図20 1価アルコールを犠牲還元剤とする水からの光水素発生反応に
対するPt担持anatase(左)とrutile(右)の光触媒活性の比較。

図20はその結果である。これらの試料はすべて同一条件で水素還元し、同じ量のPtを担持している。光触媒活性の高い試料についてみれば、anataseとrutileの活性は同程度であるといえる。このような傾向はエチレングリコールなどの2価アルコールやEDTAを犠牲剤とした時にも見られ、中には量子収率(光子2個で水素分子1個とする)が100%を越える場合もある。一方、アルコール類以外の有機物を用いた光水素発生反応では図21に示すように、いずれについても明らかにanataseの光触媒活性が高い。

アナタースとルチルの光触媒活性ー水素発生2
図21 アルコール類以外を犠牲還元剤とする水からの光水素発生反応
に対するPt担持anatase(左)とrutile(右)の光触媒活性の比較。

 この結果をどのように説明するか、筆者は次のように考えている。TiO2光電極によるアルコールの酸化反応では電流2倍効果が見られる。電流2倍効果は、犠牲還元剤(この場合、アルコール)の1電子酸化状態の酸化還元電位がTiO2のフラットバンド電位より負となり、その状態からTiO2電極への電子注入が起こるためと考えられている。電流2倍効果が起こるためにはさらに、酸化されるものがTiO2に直接、吸着して正孔と反応する必要がある。アルコールはTiO2粉末に水よりも強く吸着することが分かっており、また、光水素発生の量子収率が100%を越えることがあるのは、光触媒系で電流2倍効果が起こっていることを示している。
 電流2倍効果の起こっている系では、光触媒活性(量子収率)は正孔の酸化力のみに依存するであろう。なぜならば、正孔による直接酸化は不可逆的であるから、消費された正孔に対応するだけの電子が必ず消費されるからである。すなわち、正孔が1個消費されると、(理想的には)電子も1個消費されるので、伝導帯の位置の差は現れない。正孔の酸化力は、被酸化物の酸化電位とTiO2の価電子帯上端の電位との差(過電圧)によって決まる。TiO2によるアルコール光酸化の過電圧は、anataseとrutileの価電子帯位置の違いがせいぜい0.1eV程度であるから、どの結晶形でも2 eV以上になると見積もられる。したがって、anataseとrutileの光酸化力の違いは小さいので、正孔による不可逆的な酸化が起こっている、アルコールを犠牲剤とする場合には、両者の光水素発生活性の差はほとんどない。
 一方、確かな証拠はないが、ギ酸やエチルエーテルなどを犠牲還元剤とする場合は、正孔による直接酸化ではなく、水の酸化物(OHラジカルなど)による酸化であると考えられる。この場合、犠牲剤の酸化反応は一段階で起こらず、逆反応や副反応を含むことになる。このような場合、消費された正孔に対応して電子が消費されることはなくなり、律速段階は水素発生になる。水素発生(水の還元)にかかる過電圧(NHE基準フラットバンド電位)は、表11.1に示したように、anataseが約0.2V、rutileが約0.1Vであるのでanataseの方が水素発生に有利である。したがって、図21の場合には、水の光分解と同様に、anataseとrutileの伝導帯の位置の違いが現れて、anataseの光触媒活性が高くなる。

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以下、工事中。

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