雪山の登り方

 山スキーをするためには当然ながら山に登らなければなりません。リフトやロープウェイで登る方法もありますが、すべての山に通用するわけではありません。ほとんどの山は足を使って登らなければなりません。ここではピッケルやアイゼンを使う本格的な冬山登山ではない、ハイキング程度の山スキーのための登り方について解説します。

ツボ足で登る
カンジキで登る
スノーシュウで登る
スキーで登る
シール登行と用具
キックターン
地形図の読み方
磁石と高度計の使い方

ツボ足で登る

 もっとも原始的な方法。春になって雪がしまり、いわゆるカタ雪になるとツボ足でも歩けるようになり、ゲレンデ用のスキーとスキー靴でも山スキーができます。しかし、厳冬期の北海道では、クラストした急斜面をアイゼンをつけて登る以外、ツボ足で山を登ることはないでしょう。深雪の中をツボ足で歩くのは想像以上に重労働で疲れます。

カンジキで登る

市販されているワカン
カンジキ(ワカン)

 カンジキとはもっとも古くから使われている、雪の中を歩く道具です。ワカンともいいます。もともとは木の枝、つるなどを円形や楕円形に折り曲げて作っていました。滑らないように爪をつけたものや、凍雪用、登山用には鉄製の爪付きのものもあります。サトシンも昔は山ブドーやコクワの蔓を曲げて自作したものでした。現在ではアルミ製のものもあります。
 大きいほどもぐらなくなりますが歩きにくくなります。市販されているカンジキの大きさでは深雪で結構もぐるので前進するのが楽ではありません。 

スノーシュウで登る

スノーシュウ

 スノーシュウとはようするに西洋カンジキのことですが、一般にカンジキよりも長く、前方が少し上に反っているのが特徴です。金属(またはプラスティック)製で布が張られていたりします。使ったことはないですが、見ているとちょっとした急斜面になると登るのがたいへんそうです。
 スノーボードをやる人達(ボーダー)はたいていスノーシュウを使って登っています。若い人達が多いので元気がよく、スキーより早く登ってゆきます。

スキーで登る

 スキーは滑るので坂を上がるのは楽ではありません。横になって二の字、二の字にカニの横這いのように登ったり、スキーを逆ハの字に開いて登りますが、時間がかかるし疲れます。深雪の中ではなおさらたいへんです。クロスカントリーのスキーで裏にウロコを刻みつけてあるものは、ある程度の坂は上れるようです。しかし当然、滑りは悪くなります。ということで、昔からスキーで山に登るにはシールをつける方法が行われています。

シール登行と用具

シール:シールとはアザラシのことで、昔はアザラシの皮を山用スキーの裏に張り付けていたのです。アザラシは氷の山を登ったり、滑ったりし易い毛皮をもっているので使われたものです。ただし、「スキーのシール」という言葉はたぶん外国では通用しません(と思う)。英語ではスキン(skin)と言います。現在はナイロンやモヘア、あるいはそれらの混ぜものが使われています。

くくりつけシール
くくりつけシール
左:ナイロン、
右:アザラシ
張り付けシール
張り付けシール
左:シール面、
右:ノリ面

 シールには「くくりつけシール」と「張り付けシール」があります。「くくりつけシール」はバンドや紐でシールをスキーに取り付ける方式、「張り付けシール」はシールを糊でスキーに張り付ける方式です。どちらにもいくつかの変種があります。
 「くくりつけシール」と「張り付けシール」のどちらが優れているかは議論のあるところです。シールは面積が大きいほど効果がある(後滑りしない)ので、幅が広いものが得やすい「張り付けシール」の方が性能がよいと言えます。問題は、低温のときや雪が付着したとき、「張り付けシール」の粘着力が低下して張り付けられなくなることです。行動中にシールを何回も付けたり、はずしたりする場合には「くくりつけシール」の方が安心できます。私は普段は「張り付けシ−ル」を使っていますが「くくりつけシ−ル」も予備として持ち歩いています。なお、「張り付けシール」の粘着力はメーカーにより異なりますので買うときには注意してください。
 張り付けシールの粘着力が下がったときに塗りつける糊(ボンド)が売られています。ついているゴミをよく取り除いてから糊を塗ります。スキーにシールを張り付けてから暖かいところに長い間おくと、糊がスキーにつくことがあります。

シール登行のコツ:初心者がシール登行をする場合、たいてい後滑りに悩まされます。後滑りはスキーに対する体重のかけ方(姿勢)で違います。後滑りが怖くてへっぴり腰になると余計後滑りします。まず、踝(くるぶし)をよく曲げてまっすぐに立ち、踵(かかと)を踏みしめるように登ります。踏みつけたとき、スキーが”ギュッ”というような音を立てればOKです。たいていの山スキー用ビンディングには登行補助器(クライミング・サポート)がついているので、これを上げることにより踵の高さを調節できます。急斜面ほど踵を高くすると楽です。多くの人が歩いてトレースが固まってくると、シールの効きが悪くなります。スキーを叩きつけるようにしたり、新雪に片方のスキーを突っ込むなどの工夫をします。あとは練習あるのみ。
 シールやシール登行については「山スキー同志会」のHPが詳しいです。シールを買う前に必見です。

フリッチ ディアミール
ディアミール

ビンディング:ゲレンデ用のスキービンディング(締め具)を使って山を登るのは踵が上がらないのでかなり苦労をします。山スキー用のビンディングは登行時に踵を解放できるようになっています。いろいろな種類がありますが昔からジルブレッタ社のものが広く使われています。私が使っているビンディングは数年前に発売されたフリッチ ディアミール社のものです。ゲレンデスキー用のビンディングのようにステップ・インができて解放機構も同じにもかかわらず、非常に軽くできています。登行器は3段に切り替えられます。滑り重視の人にお勧めです。プラスティック登山靴を使う場合はディアミールは使えないのでジルブレッタなどを使うことになります。
 ゲレンデ用のビンディングでもアルペントレッカーやセキュラフィックスなどのビンディングアタッチメントをつけると踵が上がるようになります。いろいろと使いづらい点が多いですが、ゲレンデスキーで山スキーを試しにしてみるのにはよいでしょう。
 テレマークスキーは踵が上がるビンディングですから山スキーにはもってこいのものです。しかし、深雪のラッセルではスキーを上げにくいという声もあります。
スキーアイゼン(クトー):アイスバーンやクラストした斜面ではシールが効かなくなるのでスキーアイゼンをつけます。堅い雪をトラバースするときにもシールの横ずれを防ぐのに有効です。ディアミールはスキーアイゼンの刃が長いので気に入っています。
スキー靴:ゲレンデ用スキー靴は滑るにはよいですが、登りは自由が利かなくて楽でありません。登山靴は登りは楽ですが滑るときにスキーをコントロールできません。そこで中間の兼用靴というのがあり、私も使っています。厳寒期用には厚い靴下がはけるような靴を選ぶべきです。
ストック:普通のゲレンデ用のストックで十分です。だだし、リングが小さいものはもぐって力が入らないので大きめのリングに取り替えます。取換え用リングはスポーツ店で売っています。伸縮できる山スキー用のストックが売られていますが高価すぎます。手入れが悪いと動かなくなったり、スキーをしている最中に引っかけて抜けてしまったりします。

キックターン

 キックターンは山スキーの重要な技術です。急斜面をジグザグに登るために不可欠ですし、下りでも斜滑降とキックターンさえできればどんな山でも降りることができます。キックターンなんか簡単にできると思っている人も多いと思いますが、初心者は案外、失敗する人が多いのです。深雪の急斜面では、スキーを持ち上げて山側で回転させることは難しくなります。山側スキーは回せても谷側スキーが回せなくなります。このような場合には、谷側のスキーを谷側に向かって回す方が楽です(谷回りキックターン)。しかし、谷に向かうのが怖いと思う人や、片足ではへっぴり腰になる人は、転びやすいのです。また、登りではゲレンデスキーの時のように踵が固定されていないのでスキー操作が自由になりません。まず、スキーを水平にして足場をしっかり作ってから回るようにします。
 どうしても山回りキックターンをしたい人は、谷側スキーを前に振り上げて回すのではなく、後ろに引いて回す方法(抜き足のキックターン)をお勧めします。まず、山側スキーを転換する方向に回し、次に谷スキーを後ろに引いて回しながら引きつけます(下の写真参照)。この方法は長いスキーではやりにくいですが、身長程度の短い山スキーならば簡単にできます。いずれの方法も深雪の急斜面では練習と工夫が必要です。

抜き足のキックターン

地形図の読み方

 雪のないときの登山は登山道を辿ってゆけばよいのですが、雪山では登山道は見えません。たとえ踏み後があったとしても正しい道かどうか分かりません。山スキーをする人は、たとえGPSを持っているとしても、地形図は必需品です。国土地理院の1/25,000(あるいは1/50,000)地形図とコンパス(磁針)を常に持ち歩くようにしましょう。
 地形図を持っていても読み方が分からなければ地形図サンプル役に立ちません。地形図の読み方というのは、等高線の曲がり具合と間隔から実際の地形を想像することです。地形図から尾根や沢のスケールや形状を正確に読みとることは訓練しないとできません。簡単なところから始め、多くの経験を積むことが大切です。まず、沢と尾根を見分けることから始めます。右の地図で川が流れているところ(青い線)は沢であるとわかります。Aの地点は狭い尾根であり、川の側が急斜面(崖)になっていることも容易に読みとれるでしょう。Bの尾根は広く緩やかであり、よく見るとこの尾根の中にも浅い沢地形があることが分かります。Bの尾根上部に小さなピーク(792mポコ)があります。このように丸く閉じた等高線はピークを示します。Aの尾根の端もピークですが、地図には書かれていません。これは高さが等高線の間隔(10m)以下だからです。このように、地図に書かれていない地形も想像できなくてはなりません。
 地図に川の記入がない沢(川が流れていないわけではない)には図の赤線のように書き込みをしておくとわかりやすくなります。この図でははっきりしている沢だけを書きましたが、詳細に検討すると他の小さな沢も見えてきます。地図上では小さく見えても実際は馬鹿にできない大きさの沢の場合もあります。山スキーでは主に尾根を登ったり滑ったりするので、尾根の判別と地形の掌握が重要です。尾根を間違って滑り降りるとたいへんです。
 さて、ここに載せた地形図から尾根や沢の地形を想像できましたか。参考までにカシミール3Dで作った、少し南の上空から見た3DCGを載せておきます。標高データが50mメッシュ(50mx50m広さの場所の中心標高)なので、小さなピークや沢は見えません。
 地形図については次のサイトが参考になります。
http://www.wnn.or.jp/wnn-o/yamakei/dai2/index.html

コンパスと高度計の使い方

オリエンテーリング用の
コンパス
コンパス

 自分の位置を知るためには地形図とコンパス(磁石、正しくは方位磁針)が必要です。磁針のN極が北を指すことは誰でも知っていますが、それは磁北を示すもので、ほんとうの北(真北)とは異なります。磁北と真北の差は北に行くほど大きくなります。この差は国土地理院の地形図の右端の備考欄に「磁針方位は西偏約○°○’」のように書かれています。札幌付近では真北は磁北より約8°、東側にずれています。この差は馬鹿にできません。一般的な夏山に登る人はコンパスはなくてもすむかもしてませんが、冬山では必需品です。夏でも登ってきた道とは違う方向に下りてしまう、方向感覚の鈍い人がいます。雪山では道がない上に、視界が悪いと目標も見えませんから、方向が分からないと命取りになりかねません。
 私はオリエンテーリング用のコンパス(シルバ・コンパス、写真)を使っています。オリエンテーリングは地図とコンパスで目標を探して見つけながら走る競技ですから、そのためのコンパスも地図と照合し易くできています。地図とコンパスから位置がわかるといっても、道に迷ってからでは遅すぎます。地質調査のようにルートマップを作りながら、出発点から方位を確かめて地形を確認しながら行けば間違いありません。ルートマップの書き方は
http://www.dino.or.jp/shiba/survey/sur_107.html
にあります。

スントの高度計

 山や沢登りでは高度がわかると位置を決めやすくなります。高度計は気圧計が内蔵されており、気圧の変化から高度を計算します。最近はデジタル型の腕時計に組み込まれたものが主流です。私の使っている高度計はスント(SUUNTO)のもので、高度(気圧)、方位、温度を測定できます。高度計は、低気圧では高度が上がり高気圧では高度が下がるので、常に高度の補正をして使わねばなりません。登山開始の時に登山口の高度に合わせるのがよいでしょう。長時間にわたって使うときには高度の分かっている点(ピークなど)ごとに補正するようにします。


以下、建設中。随時更新。


inserted by FC2 system