野生動物の生態を探る
アニマル・トラッキング
Animal tracking

 雪の上には動物が歩いた足跡、食事をした跡、糞などが残ります。残された痕跡から、どういう動物が、どのような行動をしたか、どのような生活をしているかなど、その動物の生態を読みとることをアニマル・トラッキングと言います。山スキーの途中で見かける野生動物の痕跡から野生動物の分布を知り、その生活を想像することは楽しいものです。
 アニマル・トラッキングの手始めは足跡の鑑定です。ここでは動物の歩き方と足跡の特徴と生態を解説し、野山で見られる動物の足跡や食痕などを写真で紹介します。

 

目次
四足歩行動物の歩き方と走り方
イヌ科の動物の歩き方と足跡
イヌ キタキツネ エゾタヌキ
ウサギとリスの歩き方と足跡
エゾユキウサギ エゾリス
イタチ科の動物の歩き方と足跡
エゾクロテンとキテン ホンドイタチ エゾオコジョ キタイイズナ
 
ネズミ類の歩き方と足跡
ヒグマの歩き方と足跡
アライグマの歩き方と足跡

四足歩行動物の歩き方と走り方

 
ウマの交互歩行(左)と跳躍前進(右)
 四足歩行する動物の歩き方と走り方には、大きく分けて「交互歩行(前進)」と「跳躍歩行(前進)」があります。例えば、ウマがゆっくり歩いているとき(並足という)、前右足・後左足と前左足・後右足を交互に前に出して前進します。この時、後足が前足よりも前に出ることはありません。ゆっくり走るとき(速歩またはトロットという)も同様に足を交互に出します。ところが、速く走るとき(駆足またはギャロップという)は後ろ足2本で跳ね、前足2本をほぼ同時につき、後足は前足跡より前につく跳躍前進になります。
 交互歩行と跳躍歩行の仕方は動物によっていろいろです。なかにはカンガルーのようにほとんど跳躍歩行しかしない動物もいます。

イヌ科の動物の歩き方と足跡

 食肉目イヌ科の野生動物で北海道に生息するものは、キタキツネとエゾタヌキです。これらはイヌととてもよく似た歩き方、走り方をするので、まずイヌについて見てみましょう。

イヌ

イヌの並足(左)と駆足(右)の跡
 イヌは野生動物ではないですが、冬にも登山者について歩いたり、単独で近郊を歩き回ることがあるので、山の中でも足跡をよく目にします。
 イヌの並足と駆足の仕方は基本的にはウマと同じです。並足では前足の跡を後足が踏んで行くので足跡が一つになり、二足歩行したように見えます。駆足では後足の跡が大きく斜めにつき、そのすぐ後に前足の跡が縦につくのが普通です。
 イヌには大きなイヌも小さなイヌもいるし、歩き方にも個体差がありますが、並足の跡は一般にタヌキに似ています。また、駆足の跡はキツネやタヌキのそれと区別するのは困難です。
 イヌを連れた登山の是非には議論のあるところですが、アニマル・トラッキングを楽しむ立場からは、山で見るイヌの足跡は自然界に異物が混入した感があります。また、イヌの糞尿を通じての病原菌の持ち込みなど、生態系への影響も否定できません。外国の国立公園の中にはペット同伴を禁じているところもあり、わが国でも現在、検討されています。

キタキツネ

キタキツネとその並足の跡
キツネの足跡
 キタキツネは最近どこでも見かけるようになり、足跡もたくさん残されています。イヌと似てますが、左右の足跡にぶれがなく、ほとんど一直線なのが特徴です。しかし、全速力で走った場合にはイヌの駆足やウサギの並足ような足跡になります。
 野生のキツネは野ネズミや昆虫を餌にしています。冬はもっぱら野ネズミを捕っているようです。キツネが雪を掘って野ネズミを探した跡を見ることがあります。
 キタキツネは昔(30年以上前)、山の中にしかいませんでしたが、今では札幌など大都会の周辺でも繁殖しています。足跡も山の中よりも市街地周辺に多く見られます。
 キタキツネが増えたのは、狩猟をする人が減ったのと、酪農の拡大によって餌が得やすくなったためでしょう。キタキツネの毛皮は昔、高く売れたので猟師は血眼になって探していました。そのためか山の中でも滅多に見ることはなかったのです。
 最近、その増えたキタキツネが激減しているそうです。原因は観光客の与える餌(菓子類)にあると言われています。イヌにチョコレートを与えると中毒を起こすように、キツネに人工添加物のたくさん入った菓子類を与えると、アトピー性皮膚炎のような皮膚炎を起こすそうです。野生動物に餌を与えることは、その動物を不幸にするだけであることを知らない人が多すぎます。動物を一時は喜ばせても、それが悪い結果になるのでは可愛がったことにはなりません。

エゾタヌキ

エゾタヌキの並足の跡
タヌキの足跡
 北海道にいるエゾタヌキは数が少ないうえに、冬期間は出歩くことが少ないので、雪の上の足跡を見ることはキタキツネほど多くはありません。足跡は山の中にはほとんどなく、平野部の人家の近くでよく見かけます。私が昔、住んでいた道東の山の中(摩周湖の北側)では見たことがありませんでした。
 エゾタヌキの並足の跡は、イヌによく似ていて見分けるのはなかなかたいへんです。イヌよりも足が短いので、足を引きずったような跡や深雪では腹をすった跡が見分けるポイントです。
 タヌキの主な餌は、地中の昆虫や小動物、果実などです。タヌキはキツネほど俊敏ではないので、餌の不足する北海道の冬は厳しいものです。さらに、タヌキの足の裏(肉球)にはキツネのような毛が生えていないそうです。これでは足が冷たいので、雪の上を歩くのは苦手なのでしょう。
 そのため秋に食べ溜めして厳冬期を半冬眠状態で過ごします。厳冬期のエゾタヌキは、4〜5日間、巣穴から出ることなく過ごし、出ても行動するのは数10mの範囲内だそうです。春になると雪上を歩きやすくなることと、発情期になるので行動範囲が広くなります。
 タヌキと言えば、「タヌキ寝入り」がよく知られています(見たことないですが)。これは寝たふりをしているのはなく、本当に気を失っているのだそうです。人間のタヌキ寝入りはもちろん寝たふりのことです。キツネとタヌキの化かし合い、などいうのも人間、とくに政治家の話ですね。

ウサギとリスの歩き方と足跡

 ウサギとリスはともに並足が跳躍前進であるという特徴があります。ウサギはまれに交互歩行をすることがありますが、リスの交互歩行は地上では見たことがありません。
 北海道のウサギ科にはエゾユキウサギとエゾナキウサギがいますが、ナキウサギは高山の岩石帯に生息が限られる上、冬は餌ををため込んで穴籠もりするので足跡を見る機会はほとんどありません。
 リス科にはエゾリスの他にエゾシマリスとエゾモモンガがいます。シマリスは巣穴に餌をため込んで冬籠もりをし、春先まで雪上に出ることはありません。モモンガは木から木に滑空して飛び移るので地上に降りることはほとんどなく、木から落ちたとき以外、足跡を見ることはありません。

 エゾユキウサギ

 北海道の野ウサギはエゾユキウサギといい、山野のどこでも足跡を見かけます。山では標高1,200mくらいの高さまで行動しているようです。スキーをしていて最もよく見る足跡です。
エゾユキウサギの並足(跳躍前進)の跡
ウサギの足跡
エゾユキウサギがダケカンバの枝を食べた痕と糞
 
 並足の跡で大きくて横に並んでいるのが後足、その後に小さく縦に並んでいるのが前足の跡です。いわゆるウサギ跳びという跳躍前進です。駆足になっても、歩幅が大きくなって乱れる以外、変わりがありません。イヌ科の動物のような交互歩行はほとんどしません。
 エゾユキウサギの冬季の食べ物は木の皮、小枝、芽、枯れ草などです。あちこちで食事をした跡が見られ、その場所には糞が残されていることがよくあります。
 野ウサギの足跡をどこまでも辿っていくと、急に足跡がとぎれてしまうことがあります。これを「トメ足」と言います。キツネなどの天敵に跡をつけられて、寝込みを襲われないための知恵です。足跡を消す手口は、数歩ほど後戻りをしてから遠くにジャンプするのです。しかし、人間はそのことを知っているので、「トメ足」を見つけると、近くにウサギが寝ているなとわかってしまうのです。
 野ウサギは藪山の中を行き来するとき人間の作った林道をよく利用しています。やはり藪の少ないところを通りたいのでしょう。野ウサギはまた同じ道をわりとよく歩く習性があるので、通り道に針金で作った罠を仕掛ける狩猟法があります。私は大学入学前まで山の中に住んでいたので初冬の頃、野ウサギを罠でとることをよくやりました。毛皮を売って小遣い銭稼ぎをし、肉は貴重な蛋白質源になったのでした。今の都会の人たちには考えられないことでしょう。野ウサギは農家にとって害獣であり、キャベツ(北海道ではカイベツという)などの農作物をたっぷり食べられていましたから、駆除することは奨励されていました。

エゾリス

 
エゾリスの並足(跳躍前進)の跡とその変化
リスの足跡
冬山ではエゾリスの足跡もよく見かけます。ウサギの跳躍前進の跡に似ていますが、全体に小さく、前足の足跡がウサギのように縦にならないで後足のすぐ後に小さく横並びになります。しかし、前足の跡が後足跡の前になったり、前足跡がないこともあります。おそらく、カンガルーのように跳んだり、とんだ後に手をついたりすることがあるのでしょう。
 エゾリスは移動するとき、木を飛び移ることが多く、地上に降りるのは遠く離れた木に行くときか、餌を探すときです。秋にクルミなどの木の実を地中に埋めておいて、冬の間はこれを雪の下から掘り出して食べます。雪の下のものをよく見 つけるものだと思いますが、見つからないことも多いようです。見つからなかったクルミはやがて芽を出して生長するので、エゾリスが繁殖を手助けしていることになります。
 エゾリスが餌を探すのは主に夜明けの頃ですが、それ以外の時にも見ることは多いので、運が良ければクルミを掘っている姿を見ることができるでしょう。
クルミを食べるエゾリスと残した殻
ちなみに、エゾリスはクルミの殻を歯で割って中の実を食べます。
 エゾリスの毛皮も昔は高く売れたので狩猟の対象になっていました。エゾリス(昔、山ではキネズミと言っていた)が餌を探す時間をねらって、猟師たちは暗いうちに家を出ます。木の空洞に作ったリスの巣を見つけてスキーのストックで木をカリカリとひっかくと、リスは天敵のテンが来たと思って巣から飛び出す、という話を聞いたことがあります。
 アメリカやヨーロッパの公園にはリスがたくさんいます。ある日本の大学の学長さんがこのようなリスのいる風景にあこがれて、大学のキャンパスにエゾリスを放すことを計画しましたが、試験的に放されたエゾリスたちはすぐにいなくなってしまいました。ろくに木もない、餌もないところに連れてこられたエゾリスにとっては、とんだ迷惑という以上に悲劇的なことでした。

イタチ科の動物の歩き方と足跡

 北海道に生息する食肉目イタチ科の動物は、ホンド(ニホン)イタチ、エゾオコジョ(エゾイタチ)、キタイイズナ、エゾクロテン、ホンドテン(キテン)、および野生化した養殖ミンクです。エゾカワウソは絶滅したと言われています。
 イタチ類はいずれも同じような姿をしており、大きさは個体差が大きいですがおおまかに、テン≒ミンク>イタチ>オコジョ>イイズナの順になります。イタチ科の動物は並足も駆足も両足をそろえた跳躍前進ですが、ときどき交互歩行もします。お互いによく似ているので区別するのは難しく、大きさや場所で判断するしかありません。

エゾクロテンとキテン

テンの並足(跳躍前進)の跡
テンの足跡
テンの交互歩行跡
 北海道にもともといたテンはエゾクロテンですが、毛皮採取を目的とした養殖のために移入されたホンドテン(キテン)が逃げ出して野生化したテンもいます。クロテンは石狩低地帯より東および北側に、キテンは主に西側から道南に分布しているといわれます。黒とか黄とかいっても、実際には同じような毛色と大きさなので見ただけでは区別できないそうです。
 テンは両足をきっちりそろえて跳躍するので、足跡はテンテンとつき、キツネの足跡のように見えることもあります。大きいイタチやミンクの足跡もよく似ていて見分けるのは困難です。テンは木登りが得意ですがイタチやミンクは木に登りませんから、木に登った跡があればテンと見てよいでしょう。
エゾクロテン
 テンはネズミなどのほ乳類を主に補食する肉食動物ですが、ときには果実や草木も食べる雑食性です。クロテンとキテンでは食性が少し違うそうですが詳しいことはわかりません。
 エゾクロテンの毛皮は上質なので昔は相当、乱獲されたと思われます。私が山の中に住んでいた頃、テンと思われる動物を見たのは一度きりです。札幌近郊の百松沢山の西に「貂(テン)の沢」と名付けられた沢があります。昔はたくさんテンがいたのでしょう。
 10年ほど前から、私が若い頃には見かけることがなかったテンの足跡をよく見るようになりました。テンに似た足跡をつけるミンクも養殖場から逃げ出して野生化し繁殖しているので、ミンクの足跡の可能性もあります。一般にミンクは川に沿って歩くことが多く、山の奥深くに入ることはありません。テンと思われる足跡の多くは山奥まで広く分布しているので、少なくとも山の中の足跡はミンクではなくキテンであろうと思っていました。そしてついに先日、定山渓豊羽元山小学校(現在は廃校)の尾根を上がったところでその動物を見ました。確かにテンの毛色でした(野生化したミンクは褐色)。
 エゾクロテンも旭川近郊ではかなり見ることができるようで、インターネット上に写真がアップされていたりします。最近では道東の温泉宿で餌付けがされていたりします。

ホンドイタチ

イタチの跳躍前進の跡
イタチの足跡
 北海道のイタチは元々いたものではなく、明治初期に船に紛れ込んで函館に侵入したのが最初です。その後、野ネズミを捕る益獣として、養殖したホンドイタチを放したこともあったそうです。現在では全道くまなく分布しています。
 イタチ類は似たような足跡なので見分けることは難しいですが、足跡の大きさや歩いた場所などからだいたい見当がつきます。イタチはザリガニや魚などの水生動物も餌とするので川の近くを歩くことが多く、川の中にも入りします。これはミンクも同じですが、大きさがイタチより大きく、繁殖場所も今のところ限られています。写真の足跡は喜茂別岳に登る途中の黒川の川岸で見たもので、まず間違いなくイタチのものです。
 イタチの毛皮も昔は高く売れたので罠で獲ることが行われていました。竹筒とバネを組み合わせた「竹ずっぽ」という罠をイタチの通り道に仕掛けておきます。私は1匹しか獲ったことはありませんが、毛皮は野ウサギの3倍以上の値段で売れました。
 イタチは野ネズミを捕ってくれる点では益獣ですが、ニワトリを捕りに来るので害獣でもあります。イタチが鶏小屋の中に入ると、中にいるニワトリを全部殺してしまうことがあります。イタチ類はきわめてどう猛、残忍な性格で、必要とする以上の獲物を殺すという行動は他の動物にはあまり見られません。

エゾオコジョ

エゾオコジョ(夏毛、美瑛富士にて)
エゾオコジョ
 エゾオコジョは、エゾイタチと言われるように、昔は北海道に広く生息していました。しかし、狩猟や体のより大きいホンドイタチの侵入によって圧迫され、現在では高山の岩礫地帯周辺にわずかに生息するのみです(準絶滅危惧種)。冬季には平野部にまで下りてくるので足跡を見ているかもしれませんが、他のイタチ類と見分けることは難しいので、足跡の写真はありません。
 そのかわりにエゾオコジョの写真を載せておきます。ナキウサギの生息地でナキウサギを狙ってせわしなく走り回っていました。短いですが動画も撮ったので見て下さい。
 イタチ類のうちオコジョとイイズナは冬に毛変わりして白くなります。しかし、オコジョは尻尾の先が黒いままで白くならないので簡単に見分けられます。

キタイイズナ

 
キタイイズナの跳躍前進の跡(左)と雪に潜ったり頭を出したりした跡(右)
北海道のキタイイズナはコエゾイタチとも呼ばれ、イタチ類の中では最小の種です。平野部から山岳地帯にまで広く分布していますが、数は少なく、姿を見かけることはほとんどありません。私が見たのは昔、冬に納屋の中で死んでいたものだけです。その時は名前は分からなかったので、最初見たときは白いネズミかと思いましたが、イタチの仲間であることはすぐ分かりました。
 姿を見ることはなくても雪上の足跡は意外と人里近くで見ることができます。イイズナの歩き方はイタチ類共通の跳躍前進ですが、体が小さいので足跡は野ネズミの足跡のように見えます。野ネズミの足跡との大きな違いは尻尾の跡がつかないことです。野ネズミのようによく雪の中に潜ります。そして雪の中から頭だけ出してあたりを偵察します。雪の中から顔を出している写真がインターネット上にもありますから、イメージ検索すると見つかるでしょう。
 イイズナが雪に潜るのは、身を守るためと野ネズミを捕まえるためです。小さくてかわいい顔をしていますが、他のイタチ類と同様、非常にどう猛です。 

ネズミ類の歩き方と足跡

野ネズミの跳躍前進の跡と尻尾を引きずった跡(左上)
野ネズミの足跡
スキーのシュプールに飛び出してきた野ネズミ
スキーのシュプールに落ちたネズミ
 野ネズミは野山にたくさんいるはずですが、雪の上に足跡を見ることはあまりありません。これは、土や雪の下のトンネルを通って活動しているからです。雪が融ける頃、ネズミたちが雪の下に作ったトンネルを見かけることがあります。
 スキーでラッセルしているとネズミが飛び出してくることがあります。ネズミが潜っていた穴をスキーが崩してしまったからでしょう。
 ネズミの並足はイタチ類と同じ両足をそろえた跳躍前進で、ゆっくり歩くときは交互歩行です。並足の跡はイタチに似ていますが大きさが小さく、足跡の間隔が短くなります。特徴的なのは、たいていの場合、尾を引きずった跡がついていることです。イタチ類の尻尾はフサフサしていて太いので、このように細い尻尾の跡を残すことはありません。
 北海道のネズミ類は4属9種おり、その他にトガリネズミ類が2属5種いるそうです。トガリネズミはネズミといってもモグラ目で、北海道ではモグラだと思われていますが、本州のモグラとは違います。
アカネズミが食べたクルミの殻
 その中で野ネズミといわれるのは、エゾヤチネズミ、ミカドネズミ、エゾアカネズミ、ヒメネズミなどです。ドブネズミは家ネズミと思われていますが、山の中でも川沿いに生息しています。ネズミの種類を見分けるポイントは尻尾の長さだそうですが、姿を見ただけでは断定は困難でしょう。足跡ではもちろん区別できません。
 エゾヤチネズミは雪の下の若木や木の皮を食べるので、植林の大敵です。せっかく木を山に植えても冬の間にエゾヤチネズミに食べられて枯れてしまう被害が絶えません。他の種の野ネズミはこういう悪さをあまりしません。しかし、殺鼠剤(毒入りの餌)で駆除されるときにはエゾヤチネズミだけでなく区別なく行われますから、他のネズミにとってはとんだ迷惑なことです。
 一方、アカネズミは木の実を好み、クルミも歯でかじって穴をあけて食べます。このとき、クルミの殻の接合部に穴を開けるのが特徴です。

ヒグマの歩き方と足跡

 
初冬(左)と春(右)のヒグマの足跡
ヒグマの足跡  
 ヒグマは冬眠するので厳冬期に足跡を見ることはありませんが、晩秋の冬眠前や春先の冬眠あけのときに雪の上に足跡を見かけます。早いときには3月の始め頃から足跡が見られます。今後、温暖化が進むと、道南などでは冬眠しないクマが出てくるかもしれません。
 ヒグマの並足は交互歩行ですが、イヌのように前足跡を後足で踏むことは少ないので、人がヨタヨタと歩いたように見えることがあります。多くの人はヒグマを猛獣として怖れているので過度に敏感になり、人間や動物の古い足跡をヒグマの足跡と勘違いすることも多いようです。足跡に爪や指の跡があるかどうか確認すべきです。
 夏山では登山道の近くにヒグマの足跡や糞が見つかると、入山禁止になってしまうことがよくあります。ヒグマの行動範囲は非常に広く、1日に数10`bも移動することもあります。足跡があったからその付近にヒグマがいるとは限りませんし、足跡がないからヒグマがいないとも言えません。
 ヒグマはとても人を怖れ、人目に触れないように歩くので姿を見かけることはほとんどありません。しかし、雪の上のように足跡がすべて残るとすると、北海道ではいたるところの山でヒグマの足跡が見られることになるでしょう。足跡があったら登山禁止となるでは北海道では登る山がなくなります。
 ヒグマは食肉目ですがをライオンやトラのような肉食獣ではありません。普段は草の葉や根を食べており、シカなどの死体があれば肉も食べます。ヒグマが人を襲うのはほとんど自己防衛(クマの方から見た)の場合です。たいてい人の気配がするとクマの方が逃げてゆきます。ヒグマをただ怖れるだけでなく、その習性をよく知っていれば、登山中に危険な目に遭うことはないでしょう。実際、北海道で登山中にヒグマに襲われた例は1960年(昭和45年)以降ありません。襲われることが多いのは山菜採りの人たちです。欲に目がくらんでクマの領域を荒らしに行くからでしょう。

アライグマの足跡

アライグマの足跡
謎の足跡
 もともと日本にはいなかった動物ですが、テレビアニメ「アライグマ・ラスカル」の放映以来、ペットとして人気が高まり、北米から大量に輸入されました。子供のときは可愛いアライグマも一年を過ぎるころから凶暴になるので、アニメ映画の筋書きと同じに野に放たれたようです。現在では全道的に分布が拡大し、自然遺産となった知床への侵入が危惧されています。
 アライグマは食肉目ですがクマ科ではなくアライグマ科の動物です。タヌキのように冬ごもりをするし、姿や顔がタヌキとよく似ているので間違われますが、足跡はタヌキとかなり違います。
 イヌ科の動物の足跡では残される足指の跡は四本ですが、アライグマは五本ですから、足跡から足指の数がわかれば区別できます。その他、アライグマの足跡の特徴は、@足指が細長い、A前足より後足が大きい、B前足の足跡と後足の足跡が重ならないことが多い、C左右の足の開きが大きい、D雪が深いとき、足を引きずった跡が顕著に残る、E木に登る、などです。
 アライグマは雑食性で自然界の餌だけではあきたらず、農作物を荒らす被害が多く出ています。また、木に登って野鳥の卵や雛を獲ったりなど、生態系に大きな影響を与えています。野幌森林公園のアオサギのコロニーが消滅したのはアライグマのためだそうです。また近年、エゾタヌキがアライグマに圧迫されて生息数が減少しているそうです。
 このようなアライグマの被害のため、最近制定された「外来生物法」では、アライグマは特定外来生物に指定され、防除できることになりました。知床では侵入を防ぐために、捕獲作業が行われています。
 アライグマは、外国から動物や植物を輸入する場合、十分に注意しないと取り返しのつかないことになるよい例です。国内でも植物の移植などに無神経な人がいますが、生態系は人の手を加えることによって簡単に壊れることを肝に銘じるべきです。

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