触媒入門
−光触媒をわかるための触媒化学の基礎知識−

1.化学反応の方向と速度
2.触媒と触媒反応の種類
3.化学反応の速度
4.触媒と吸着
5.触媒作用
6.吸着の「圧縮効果」
7.反応物の吸着率と反応速度
8.酸化反応と活性酸素
9.電気化学反応と電極触媒
10.分子触媒
11.触媒と光触媒の違い

 通常の触媒反応と光触媒反応は、どちらも固体の表面で起こる反応であり、共通する部分が多い。両者の違いは、反応物を活性化するしくみが異なる。これについては後に詳しく書く。
 ここでは光触媒に関連する、触媒の初歩的な知識を講義する。
1.化学反応の方向と速度  
図1化学反応は正方向だけではなく逆方向にも進む
Fig. 1

 水素と酸素をフラスコの中に入れておいても反応することはないが、触媒を微量、入れると反応が始まるのはなぜだろう。水素と酸素のように非常に反応しやすい分子でも触媒がないと反応しないことからわかるように、多くの化学反応は触媒がないとほとんど起こらない。
 私たちの身の回りにある、プラスティック、化学繊維、医薬品などは、ほとんど触媒を使って作られている。そして私たちの身体の中でも生体触媒反応が起こっている。それほど触媒に世話になっていても、触媒について知っている人は少ない。
 触媒とは「自らは変化せずに化学反応を促進する」ものだ。触媒を知るためには、まず化学反応を知らなければならない。
 化学反応は一方向に進み、ある割合まで進むと止まるように見える。反応が止まった点を化学平衡という。化学平衡になっても、じつは化学反応はなお起こっているのだ。正方向の反応と逆反応の反応が同じ速度で起こっているために、見かけ上、起こっていないように見えるだけなのだ(図1)。「触媒は化学反応の平衡を変えない」のは、触媒が正方向と逆方向の反応を同じに促進するためだ。
2.触媒と触媒反応の種類
 触媒には、英語で言うと、homogeneous catalysisとheterogeneous catalysisの二つの種類がある。これを和訳すると均一触媒と不均一触媒になるが、catalysisがモノとしての触媒ではなく、触媒作用を表す言葉であるために混乱が起こる(モノとしての触媒はcatalyst)。混乱を避けるために正確に訳すと、均一系触媒反応と不均一系触媒反応ということになる。
 "均一"というのは、反応物と触媒の"相"が同じであることである。"相"というのは液相、気相、固相の"相"のことだ。例えば、反応物が液体であり、触媒がこの中に均一にとけ込んでいれば、均一系触媒反応である。このような触媒としては、金属錯体、酸塩基触媒、酵素などがある。これらの触媒は分子の形で働くので分子触媒と呼ぶことにする。
 一方、"不均一"とは、反応物と触媒の"相"が違う反応である。不均一系触媒反応に使われる触媒はほとんど固体であるので、固体触媒を使う反応と考えてよい。工業的に使われる触媒はほとんど固体触媒である。
 固体触媒には大きく分けると金属触媒と金属化合物触媒がある。しかし、一つの触媒が単独で使われることはほとんどない。たとえば、金属触媒は通常、触媒活性、耐久性、触媒の効率的利用などのため、触媒活性のないアルミナ(Al2O3)やシリカ(SiO2)などの上に分散して用いる。土台となるアルミナなどのことを担体(support)といい、担体上に触媒をつけることを「担持する」という。
 触媒は単に活性が高いだけではなく、特定の反応だけを触媒する機能(選択性という)が高いことが求められる。その他いろいろな触媒機能を向上させるために、様々な物質が添加される。これらの添加物を助触媒という。
3.化学反応の速度  
図2 化学反応は山(遷移状態)を越えて起こる
活性化エネルギー

 化学反応には速い反応も遅い反応もある。この違いはなにから生まれるのだろうか。
 自然に起こる化学反応はすべて、エネルギーが減少する方向、言い換えると、安定な物質ができる方向に進む。したがって、エネルギーの減少量の少ない反応は遅い、と一般的には言える。しかしながら、実際上、このことはあまり重要ではない。たとえば、水素と酸素が反応して水になる反応は、エネルギー減少が非常に大きいが、なにもしなければ反応は起こらない。
 化学反応の速度を取り扱う学問を反応速度論という。現在の反応速度論は、遷移状態理論とか絶対反応速度論とかいわれるものだ。この理論では、反応物が遷移状態(活性化状態ともいう)という山を越えて生成物になると考える。この山の高さを活性化エネルギーといい、その高低が反応速度を決めることになる。山が高ければ、山を越える反応物分子の数が少なく、山が低ければ、越える分子数が増えるわけだ。
 触媒なしで水素(H2)とヨウ素(I2)がヨウ化水素(HI)になる反応は、約300℃以上の温度で起こるようになる。この反応の遷移状態として、図2の描いたような状態が考えられる。この遷移状態が壊れてヨウ化水素のなるのだ。
 反応速度論では、活性化エネルギーよりも大きい熱運動エネルギーを持つ分子が遷移状態になり、生成物になると考える。熱運動をしている分子のうち、活性化エネルギーより大きなエネルギーを持つ分子の数は、統計力学によって計算できる。そこで反応の速度kは次式で与えられる。
  k = A exp(-E/RT)     (1)
 ここでAは定数、Eは活性化エネルギー、Rは気体定数、Tは絶対温度であらわした反応温度である。両辺の対数をとって整理すると次式になる。
  log k = log A - E/2.303RT  (2)
 この関係式は、理論よりも先にアレニウスが実験式として導いており、アレニウス式と呼ばれる。実験によって活性化エネルギーを求めるには、今でもこの式が使われる。この式からもわかるように、化学反応の速度は、反応温度が高くなると急速に速くなる。
4.触媒と吸着
 触媒が化学反応を促進するのは、反応の活性化エネルギーを低くするからである、と多くの化学の本には書いてある。そして、図2の活性化エネルギーが低くなる図が描かれている。
 しかし、この説明は誤解を招くおそれがある。すなわち、触媒があるときも無いときも、遷移状態が同じだと受け取られるおそれがある。この「触媒入門」でも、以前は同じ図を使って活性化エネルギーが下がるように書いていたのだが、触媒作用を理解しやすいように改訂することにした。
 触媒が化学反応を促進するのは、反応物を吸着して活性化するためだ。そこでまず、吸着の話から始めよう。  
吸着の種類
    図3 吸着の種類

 固体表面への分子の吸着には、分子間力による弱い結合の物理吸着と分子と表面との化学結合ができる化学吸着(活性化吸着ともいう)がある(図3)。
 吸着のうちでも触媒作用で重要な役割を果たすのは化学吸着だ。分子内の原子と原子との結合力より吸着力の方が強い場合には、分子が分解して吸着する解離吸着が起こる。解離吸着は反応物の反応性を高めるのできわめて重要な触媒過程となる。
 分子が吸着して反応する触媒上の場所を活性点という。活性点の構造は、触媒と触媒反応の種類によって異なる。
 吸着が起こるために、触媒反応は複雑になる。触媒がないときに、単一過程で起こっていた反応が、触媒反応になると、反応物の吸着、表面反応、生成物の脱離、の少なくとも三つの過程を通って起こることになる。
 触媒表面で起こる反応をさらに詳しく見ると、いくつかの過程に分解できる場合が多い。吸着と脱離を含めて、もっとも単純だと思われる過程を、素過程あるいは素反応という。
 素反応の中で最も遅い素反応があり、他の素反応はそれより十分、速い場合、その素反応を律速素反応あるいは律速段階という。律速段階を促進する触媒は、理屈としては反応全体を促進する。しかしながら、触媒反応に律速段階が必ずあるとは限らず、複数の素過程が同程度に遅い場合も多い。
 実際の触媒反応では、反応物が触媒に吸着する前の段階、すなわち反応物が触媒に近寄る段階が律速段階になることがよくある。反応物を攪拌したり、流動させたりしないで静置しておくと、触媒に近づくためには拡散によるほか無い。拡散は、触媒反応に比べると一般に非常に遅い過程であり、避けなければならない。これは、光触媒についても同じだ。触媒反応よりも前の段階が遅い場合を、拡散律速とか、供給律速という。
5.触媒作用
 それでは、吸着がどのようにして反応の活性化エネルギーを下げるのか見てみよう。  
図4 触媒があるときのH2とI2の反応

 先に例に挙げた水素とヨウ素の反応を触媒を使って行うとしよう。そうすると、反応は300℃よりもはるか低温で起こり、アレニウス式を使って求めた活性化エネルギーも小さくなっていることがわかる。
 ここで触媒が何をしたかというと、まず水素とヨウ素を解離吸着して、水素原子とヨウ素原子にしたのだ。水素原子とヨウ素原子は、つぎに反応してヨウ化水素となって脱離することになる。このように、この反応での触媒の役割は、触媒がないときの遷移状態を通らない、別の反応ルートをつくることなのだ。これを化学式で書くと、次のようになる。
  H2 → 2H(a)      (3)
  I2 → 2I(a)       (4)
  H(a) + I(a) → HI     (5)
 このように、「触媒が活性化エネルギーを下げる」というのは、見かけ上の話であって、内容はそれほど単純ではない。触媒によって水素とヨウ素の反応の活性化エネルギーが下がったということは、素反応(3)〜(5)の活性化エネルギーのいずれもが、触媒がないときの活性化エネルギーより小さいということなのだ。
 言い換えると、触媒が反応物を吸着することにより、無触媒反応の遷移状態に相当する状態が、より安定に(低エネルギーで)つくられたことになる。 
6.吸着の「圧縮効果」  
図5 吸着は反応物を圧縮する

 吸着のもう一つの効能は、反応物の「圧縮効果」だ。平坦な金属表面には一平方センチ当り約1015(1,000兆)個の原子が並んでいる。もし、この金属原子すべてに分子(または原子)が吸着したとすると、その密度は数千気圧のガスの密度に相当する(図5)。
 化学反応は分子のぶつかり合いによって起こるので、一般に圧力(濃度)が高いほど速くなる。吸着による「圧縮効果」は、吸着種のぶつかり合いを大きくするので、反応の促進に寄与することになる。
 金属以外の半導体や絶縁体表面の活性点密度は、金属より小さいが桁違いに小さいことはない。
 触媒表面に吸着吸着している化学種は、強く吸着していても触媒表面を非常にはやく動き回っており、吸着した場所が離れていても反応する。
7.反応物の吸着率と反応速度
 触媒反応は固体表面の反応であるから、反応速度は反応物が表面を覆う割合=被覆率(coverage)に比例する、と多くの触媒の教科書に書いてある。しかしながら、この比例関係が成り立つためには、表面反応が律速であるという仮定が含まれている。
 触媒反応の律速段階が常に表面反応であるとは限らない。むしろ、反応物の吸着が律速段階であることが多くある。その場合、反応速度は一般に反応物の圧力(濃度)に比例する。
 表面反応が律速段階である場合(しかもその最初の素反応が律速段階である場合)、反応速度は反応物の被覆率に比例する。そこで今度は、被覆率と反応物の圧力(濃度)との関係が議論されることになる。ここで多くの教科書や論文に登場するのがラングミュアの吸着等温式(isotherm)だ。吸着等温式にはラングミュア式以外にもいろいろあるが、いずれも吸着平衡(吸着と脱離が同じ速度)にあるときの、圧力(濃度)と被覆率の関係を表すものであることに注意しなければならない。反応中の吸着−脱離は当然ながら平衡ではないから、反応中の吸着等温式は厳密には成り立たない。
8.酸化反応と活性酸素
 酸化チタン光触媒は強い光酸化力が特徴である。その酸化力を理解するために、触媒による酸化反応について述べておこう。
 まず酸化とは、@反応物に酸素をつける、A反応物から水素を奪う、B反応物から電子を奪う、ことを言う。通常、@とAのことをいうが、電気化学反応や光触媒反応ではBも重要になる。
 次に、酸化力とはなにかというと、@酸化されにくい物質を酸化できる能力、あるいはA同じ物質を酸化するときに、より低温で酸化できる能力、といえる。ちなみに、触媒反応でも光触媒反応でも、酸化されにくい物質の代表は、一酸化炭素(CO)だ。酸化力が実際に何によって決まるかというと、活性酸素の種類によって決まる。
 触媒による酸化は、酸素分子を吸着して活性酸素をつくることによって起こる。活性酸素の種類は表1に示すように触媒によって異なる。  
表1 触媒上にできる活性酸素
触媒 活性酸素種 酸化力
金属 O(原子状酸素) 酸化力最高
金属酸化物 O, O2-, O3- O > O3- >> O2-
金属錯体など均一系 O2-, ・OH, ・O2H
一重項酸素
酸化力は弱い

 金属触媒では酸素は解離吸着して原子状酸素となる。原子状酸素は、-180℃の低温でもCOを酸化できる。これほど低温で反応性のある活性酸素は他にないから、原子状酸素の酸化力が最も高いことになる。
 金属酸化物触媒では、原子状酸素O-とこれと酸素分子が結合したO3-およびO2-ができるが、金属触媒ほど原子状酸素ができないので、一般に酸化力は金属触媒に劣る。酸化力の強さはO- > O3- >> O2-の順である。この他、活性酸素種とはいえないが酸化物の格子酸素が酸化反応に関与する場合もある。なお、金属酸化物上の酸素種のマイナス電荷は、酸素の電気陰性度(電子を引きつける力)が大きいために、触媒から電子を奪うためである。
 均一系触媒反応(生体内酵素反応も含む)ではO2-やOHラジカルが重要な役割をするようになる。原子状酸素はできないので酸化力は弱い。
 Pt、Rh、Pdなどの貴金属は室温でも酸素を解離吸着し、酸化力の強い原子状酸素を作る。しかし、これらを触媒として室温でCOや有機物の酸化反応を行っても持続しない。その原因は、これらの金属がCOを非常に強く吸着するために触媒表面がCOによって覆われ、酸素が吸着できなくなるためである。このような現象を触媒の失活といい、触媒を失活させる物質を触媒毒という。反応温度を高くすると、吸着COが脱離して酸素が吸着できるようになり、酸化反応が進行するようになる。したがって、室温付近の低温で酸化反応を行うためにはCOをあまり強く吸着しない触媒を選択しなければならないが、そのような触媒は酸化力が弱い。
 酸化反応は、反応温度が低いとき、反応物の酸化され易さによって使われる活性酸素が異なる。例えば、COやメタンなどの低級アルカンはOHラジカルやO2-では酸化されず、Oでのみ酸化される。炭化水素などの有機物は、酸化されるとき様々な中間体を経由して最終的にCO2と水にまでなる。中間体の中には元の有機物よりもはるかに酸化されやすいものがあり、分子状酸素でも酸化される。反応の始まりが原子状酸素による酸化であったとしても全体の反応ではいろいろな種類の活性酸素が酸化に使われることになる。
9.電気化学反応と電極触媒  
図6 電気化学セル

 Ptなどの金属をつけた光伝導物質や半導体は、光電気化学型の光触媒反応を起こす。この反応を理解するためには電気化学の知識が必要である。
 電気化学(電極)反応を水の電気分解を例にとって説明すると、図6のように電解質溶液中に二つの電極を入れて、両極間に電圧をかけて行う。水を水素と酸素に電気分解するには、理論(熱力学)的には1.23V以上の電圧をかけなければならない。このとき、電極として身近にあるアルミやステンレスあるいは光触媒となるTiO2の板を使うと、数ボルト以上の電圧をかけないと電気分解は起こらないであろう。しかし、Ptなどの触媒活性の高い金属を電極とすると、2ボルト以下の電圧で電気分解が起こる。電気化学反応は一種の触媒反応であり、電極に用いる触媒の活性が高いほど電解電圧が下がるのだ。電気分解が起こると両極間に電流が流れ、反応速度は電流で測定される。
 水の電気分解ではプラス極(陽極、anode)で酸素発生が、マイナス極(陰極、cathode)で水素発生が起こる。陰極と陽極間の電圧を測っているだけでは二つの電極それぞれにどれだけの電圧がかかっているかわからない。それではどうやって各電極にかかる電圧を測るのか。これは、電池の電圧をテスターで測るようなわけには行かない。なぜならば、溶液と電極間の電圧を測らねばならないためだ。
 そこで電気化学では、各電極の電位を測定するために参照電極を用いる。最も基本的な参照電極は、標準水素電極(Normal hydrogen electrode, NHE)であり、水素発生電位(正確にはH+とH2の平衡電位)を与える。この電位は溶液の電位から測ったものだから、他の電極の電位は、参照電極とその電極間の電位差を測定すればよいことになる。
 反応中の電極電位と平衡電位(その反応が平衡になったときの電位)の差を過電圧(overvoltage)という。小さな過電圧で電極反応が始まる電極は、触媒活性が高いと言える。また、同じ電極であれば、過電圧を大きくするほど反応は速くなる(電流が大きくなる)。なお、ほとんどの電気化学反応の熱力学的な平衡電位はわかっており一覧表になっている。
10.分子触媒
 均一系触媒反応に用いられる触媒は、ほとんど有機金属錯体であり、分子1個でも触媒として働く。生体内の触媒である酵素も広い意味で金属錯体である。金属錯体の触媒作用も基本的には反応物を吸着することによる。吸着点(活性点)になるのは多くの場合、錯体の配位子(ligand)が外れた点、配位不飽和なサイトである。したがって、このような活性点は通常、孤立しており、分子が解離吸着して原子状になることはない。すなわち、一つの活性点に二つの原子が吸着することは通常、起こらない。分子触媒上で酸素が解離して原子状酸素ができないのはこのためである。もし、外部から原子状酸素を吸着させると、ほとんどの錯体は酸化されてしまう。錯体の活性点と吸着種の間で授受できる電子の数は固体触媒のように多くない。そのため反応のメカニズムは固体触媒の場合とは異なってくる。
11.触媒と光触媒の違い  
図7 TiO2は暗中では酸素を解離吸着しないが、光照射によって解離吸着するようになる
 固体触媒と半導体光触媒はどちらも表面反応を促進するので共通点が多い。大きな違いは反応物の活性化のメカニズムだ。
 典型的な半導体光触媒であるTiO2は触媒として使われることがない(触媒の担体として使われることはある)のは化学(活性化)吸着が起こりにくいためである。しかし、光照射されたTiO2上では室温でO2の化学吸着が起こり、酸化力の強い原子状酸素ができる(図7)。酸素が解離吸着した後の酸化過程は通常の触媒反応と同じと考えてよい。
 TiO2の強い光酸化力は、TiO2がO2とH2Oを光吸着するが他の物質を光吸着しないことにもよる。Ptは水素化や酸化に活性の高い触媒となるが、水素や酸素以外のものも強く吸着し、とくにCOを強く吸着する。そのため室温付近でCO酸化反応を行うと、Pt表面が次第にCOに覆われてしまって触媒活性が失われる。このように触媒毒によって触媒活性がなくなる(失活するという)ことを「触媒が被毒する」という。また、有機物の酸化反応でも中間体としてCOができるので同じように失活が起こる。これに対しTiO2による光酸化反応ではCOの吸着が弱いので被毒は起こらない。
 固体光触媒では光によってできた電子と正孔が反応を駆動する。光伝導物質あるいは半導体上に触媒となる金属が付着していると電子と正孔が異なる場所で反応することがある。例えば、Pt/TiO2を電解質溶液中で用いると、Pt上で還
図8 Pt/TiO2では光電気化学型の光触媒反応が起こり、Pt上で還元が、TiO2上で酸化が起こる.
元反応が、TiO2上で酸化反応が起こる。水溶液であればPt上で水の還元による水素発生が、TiO2上では水の酸化による酸素発生が起こる。これは通常の触媒反応よりも電気化学(電極)反応に近いものである。しかしながら、水のようにイオン化するものがない場合には電気化学型の光触媒反応は起こらない。
 光吸収のある金属錯体が均一系光触媒反応に用いられる。この場合、光によって配位子が脱離して活性点ができて通常の(分子)触媒ができることがある。配位子の脱離している状態が長ければ光を切っても再び活性点が配位子と結合するまで反応が進む。多くの金属錯体による光触媒反応は、錯体中で光励起した電子が反応物に移行(電子移動)して起こる。このとき、電子の移行を助けるための働きをする分子(電子リレー)が必要なことがある。
 通常の触媒はその機能を向上させるために複数の物質を混合して作られることが多い。光触媒に対しては「混合して改良する」という手法は原則として通用しない。まず、半導体は純粋でないと光励起によってできる電子・正孔の収率が悪くなる。半導体中の不純物はまた、生成した電子と正孔が反応に使われる前に消滅(再結合)させる。「混ぜているうちに良い光触媒ができるだろう」と安易に考える人がいるが、触媒と同様にはいかないことを肝に銘じるべきであろう。

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